中小企業にとって悩ましい「人事評価」。必要性はあるのか?

良い働きをした社員には良い評価をする、というのは言葉では簡単なことですが、現実にはなかなか難しいのが人事評価です。
中小企業では特に、人事評価を行なう必要性が見いだせないとか、人事評価にあたるコストをさほど割けない、あるいは、そもそも人事担当部署、担当者がいないといった事情もあり、人事評価があまり実施されていない実態があります。

なぜ人事評価が必要なのか?

なぜ企業には人事評価が必要なのでしょうか。特に重要な3つの理由を解説していきます。

①社員の処遇を決める

人事評価を行う理由として、給料、ボーナス査定や昇進といった、社員の処遇を決めるため、ということが挙げられます。
これは社員のモチベーションに直結することですし、社員にとっては家族や友人等からの社会的な評価にもつながりますので重要なことです。

②経営理念や経営方針を共有する

人事評価を行なうにあたっては、企業理念や経営方針が社員に浸透していることが必要です。
企業は言うまでもなく企業の利益を最大化するために活動しています。
企業の利益を大きくした社員、企業の目指す方向性に沿った働きをした社員を高く評価したいところですが、そのためには、企業理念や経営方針の共有があらかじめ行なわれており、どのような働きをすれば高い評価をされるのかを社員が理解していることが大前提となります。
逆に考えると、人事評価を通じて社員に企業理念や経営方針、社員にどのような働きを求めているのかを改めて周知させることも、人事評価を行なう意義と言えます。

③社員の成長を促進する

人事評価を通じて、社員1人1人が自身の目標を明確にしたり、自身の能力を把握したりすることで、働く意欲が高まります。

また、処遇や経営方針等についての理解が深まり、不満を減少させる側面もあります。

「人事評価」が悩ましい理由

人事評価が悩みのタネになる理由はなんなのでしょうか。

完璧に評価することはできない

すべての社員の働きぶりを完全に把握することなど不可能です。
また、すべての仕事を数値化して定量的に評価することもできません。
定性的に評価する場合は、人の判断や感情が多少なりとも反映されます。

さらに、何を持って「成果があがった」とみなすのかなど、ゴールの設定も難しいことが多く、人事評価を完璧に行なうことなど不可能と言っていいでしょう。

企業独自の評価の必要性

中小企業は、社内組織、指示系統なども企業によって異なりますし、それぞれの経営理念、経営方針もあり当然ながら2つとして同じ企業はありません。
上層部や社員1人1人の意向、個性が仕事に反映される度合いも大企業と比べれば大きく、独特の企業風土の中で、「こうすれば必ずうまくいく」という一律の評価手法を示すことはできないわけです。

人事評価に用いられる手法

一般的な評価手法、評価項目を挙げます。
しかし最終的にはそれぞれの企業ごとに適した手法を見出していく必要があります。

一例として参考にしてください。

評価シート、面談

人事評価に用いられる手法は、評価シートへの記入や面談が一般的です。
企業によっては、はじめに当該期間の目標を定めるためにシートに記入したり面談をしたりして、業務期間修了後に再びシート記入、面談を行って評価する、などと多段階にわたることもあります。

細かすぎる「評価シート」

大企業でよく用いられる「評価シート」ですが、中小企業であまりに詳細「評価シート」を作成する必要はありません。

大企業の場合、部署間、個人間の公平性を保ったり、人材育成、組織運営の効率化につなげたりすることも人事評価システムを取り入れる目的の1つです。
たくさんの社員の中から優秀な社員を選別したり、相対評価をしたりする必要性から、ある程度画一的な基準、手法で人事評価がなされることとなります。

一方、中小企業では、1つの業務にあたる社員数が少ない、場合によってはその業務をしているのは社内で1人、ということもよくあります。
その社員をどのように評価するのか、他の業務の社員とどのように公平性を保つのか、と考えると、一律の項目の評価シートでは限界があることに気づきます。

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3つの評価軸と評価項目

人事評価で評価する内容には、主に「成果」、「能力」、「服務態度」の3点があります。
このうちの1点のみで評価するのではなく、ウェイトづけをしながら3点すべての総合評価を行なうのが一般的です。

それぞれの評価項目には、定量的、客観的に評価しやすいものと、定性的、感覚的な評価にならざるを得ないものがあります。
売り上げを上げるか上げないかは本人次第、という場合は、成果を客観的に評価できますし、本人も、周辺の社員たちも納得しやすいのですが、複数の社員が関わっている場合は、貢献度や協調性などもきちんと評価する必要があります。

評価軸1 成果

売り上げや目標の達成度など、仕事の成果を評価します。

成果の評価項目
  • 売り上げの達成度
  • 新規顧客開拓数
  • 社員自身が設定した目標の達成度
  • コスト削減への貢献度
  • 製品ロスの削減度

評価軸2 能力

本人が有している能力を評価します。上記の「成果」を出すに至るまでの過程も評価対象とします。

能力の評価項目
  • ある機械の操作ができる技能があるか
  • 検定試験へ合格したか
  • 免許・資格を取得したか

など、1か0かで示せる項目と以下の定性的な項目があります。

定性的な能力の評価項目
  • 企画立案力
  • プレゼンテーション力
  • 業務推進力
  • クレーム対応力
  • 技術の成熟度合い

評価軸3 服務態度

服務態度全般を評価します。

服務態度の評価項目
  • 仕事への熱意
  • 協調性
  • リーダーシップ、メンバー指導
  • 報告、連絡、相談

評価の尺度

各項目に本人が自己評価を付ける場合、「○」か「×」かをつける、5段階評価や10段階評価をする、100点満点などで点数化する、などの方法があります。
また、「1人でできている/ほぼできている/できていない」のように選択肢から選ぶ場合もあります。
その他、自由記入欄にどうしてその評価となったのかなどを記入することもあります。

総合評価として、各項目の合計点を算定することもありますが、この場合、各項目の点数や項目間のウェイトはあらかじめきちんと決めておく必要があります。

本人だけではなく、上司による評価を行なう場合もあります。
上司も同じ項目で評価し、本人評価と差がある場合はその理由を記入するのが一般的です。

主観的評価

評価者によって結果が変わってもいいか

人事評価に際しての注意事項としてよく言われることの1つに、評価する人によって評価結果に差が出ることが無いようにせよ、ということがあります。
嫌いな部下は低く評価するとか、その日、気分が悪いから低い評価にするとか、あるいは評価する人の価値観や癖で評価結果に偏りが出てしまうとか、そのようなことは避けましょう、いつも客観的に評価すること、全社員を公平に評価することを心がけましょう、といことです。
これらは一見、もっともなことのようですが、中小企業の場合、必ずしも当てはまらないことがあります。

独断でも構わないことも

たとえば、人事評価は社長が独断で行っているという企業もあると思います。
社長の目が全社員に行き渡っていて、社員も自分の働きをきちんと見てもらえている、頑張れば評価してもらえる、という安心感を持っているのであれば、問題ありません。

一筋縄ではいかないことも

多くの場合、上層部と下層部との間には、何らかの意識の差があったり、不満があったりするものです。
きちんと見てもらえない、頑張ってもどうせ評価してもらえない、などと社員に懐疑心を持たれては本末転倒です。
本人だけではなく上司の意見を聞いたりしながら、社員が納得できる、透明性の高い評価を行なうことが必要です。

まとめ

人事評価の結果は、本人にフィードバックすることが重要です。
できれば面談で評価結果を本人に伝え、企業側としてはどのような点をプラスの評価としたのかや、マイナス要因の改善策などを相談するのが理想的です。

ほかに、社員向けの研修制度や新規採用のバックデータとしても活用できます。

人事評価を取り入れても、一度で完全にうまくいくということはまずありません。
改良を重ねながら運用していくほかはありませんので、ぜひ長い視点で取り組んでください。

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大橋 高広
株式会社NCコンサルティング 代表取締役社長|人事コンサルタント・研修講師|東洋経済オンライン記事投稿・日本経済新聞での書籍紹介│新刊『リーダーシップがなくてもできる職場の問題30の解決法』(日本実業出版社)Amazonランキング「マネジメント・人材管理」6位│その他著書『バカはブラック企業に入りなさい』(徳間書店)、『人事部のつくり方』(主婦の友社)│人事制度の設計と運用・管理職研修・職場改善研修・新卒研修・若手社員研修など「人事評価制度の設計と運営」を軸に、「組織文化形成・管理職育成・職場改善」など人事全般に関するサポートを提供