ということは、人事部の役割がより重要となってくるわけですが、どのような点に注意し、どのような制度を構築しておかなければならないのでしょうか。
人事部の役割に変化が起きている
企業の採用活動が厳しさを増すということは、優秀な人間を採用できる確率がこれまで以上に下がってしまうということです。
優秀な新しい人材が採用できないのであれば、今いる優秀な人間の存在感がより高まってくるわけです。
また存在感が高まるということは、今いる社員への負担がこれまで以上に増えることを意味し、人事部はその点にも注意を払う必要があるのです。
このような中、最近企業を取り巻く新たなリスクとして注目されるのが「メンタルヘルス対策」ではないでしょうか。
これまでの人事部の役割の一つに、社員の退職リスクへの対応がありました。
つまり、いかにして優秀な社員に安心・納得して仕事に打ち込んでもらえるかを考えなければいけませんでした。
とても大切な役割ですが、どのような対応をしようとも、残念ながら辞めていく社員はいるものです。
一方、辞めるわけではないのですが、社内の人間関係などが原因で体調を崩し、仕事ができなくなる社員も出てくるのです。
これが「メンタルヘルス不調者」です。最近その数が劇的に増加していることは報道などでご存知の方も多いと思います。
社内において何らかの問題を抱えつつ、それを発信するわけでもなく、また会社を辞めるわけでもなく体調を崩していく。
そのような社員に会社、人事部は対応する必要が生じてきたのです。
今や人事部は社員の「こころ」まで管理しなければならない時代となったわけです。
国もこのような事態を重く捉え、2015年12月より「ストレスチェック」の実施を一部義務化しました。
具体的にはチェック表に基づく調査が行われ、異常が見受けられた社員は専門医師との面談を受けなければなりません。
当然ながら、このストレスチェックは多くの場合、人事部主導で実施されることになります。
メンタルヘルス対策がなぜ重要なのか
第1章で「ストレスチェック」のお話をさせていただきましたが、専門医師との面談結果によっては就業時間の短縮や就業不能といった診断が出される可能性があります。
これは中小企業にとって一大事です。
もちろん、ストレスチェックが義務にはなっていない企業においても、メンタルヘルス対策が重要であることは言うまでもありません。
社員が一人抜けるということは、その抜けた分を残った社員が対応することになり、残業も発生することになるでしょう。
さらには抜けた社員の穴を埋めるべく、新たな社員を採用しなければならない事態にもなりかねません。
この人手不足時代においては大変な労力が求められます。
当然のことですが、残業や新たな採用活動にはお金が掛かります。企業にとっては予定外の出費なのです。
メンタルヘルス対策の一番の目的が社員の「こころ」の問題にいち早く対応することなのはいうまでもありませんが、会社にとっても予定外の出費を抑えるためには大変重要なことでもあるのです。
一般的に人事部は、直接的に会社の売上・利益に貢献しないと思われがちです。
しかし、メンタルヘルス対策を適切に行うことによって、上記のような出費を抑えることができたのであれば、立派な利益貢献といえるのではないでしょうか。
人事部の仕事は役割分担が重要
現代の企業において「メンタルヘルス対策」が重要であることはご理解いただけたと思います。
しかし、社員の「こころ」の問題に対応することは専門家でも難しいことではないでしょうか。
つまり、このような対応を人事部だけで行うことには限界があるといえるのです。
専門医師のアドバイスを仰ぎ、人事部が主導して対応することはもちろんですが、普段から社員の一番近くにいるのは直属の上司であり、同じ部署の先輩・後輩たちのはずです。
とすれば、「こころ」の異変に気づく可能性が最も高いのも彼ら、彼女たちではないでしょうか。
メンタルヘルス対策だけではなく、人事制度の運用には人事部以外の他部署との連携、とりわけ管理職の協力が不可欠です。
だからこそ、普段から社員の一番近くにいる上司には、部下とコミュニケーションをとること自体が仕事であると認識し行動してもらう必要があります。
そのためには、上司が部下とコミュニケーションをとるということも仕事として評価する人事制度にしなければならないのです。
まとめ
いかがでしょうか。
企業としては、いち早く社員の「こころ」の問題に気づく体制を構築することが求められますが、同時に大切なことは採用において、人事制度に沿った面接を行い、会社に合う人物かどうかを見極めることです。
人手不足の時代であるからこそ、ついつい能力だけに着目し、その人物像が会社に合うかどうかの判断がおろそかになることもあるのではないでしょうか。
結果として、その社員が早々に会社を辞める、あるいは体調を崩すという事態にでもなれば、社員、会社双方にとって不幸なことなのです。
人事制度を適切に運用し、見直すべき箇所は見直すことで、今の時代にあった人事部の役割を全うしましょう。
少子高齢化に伴う人手不足時代を迎え、特に中小企業の採用活動はますます厳しさを増しています。