管理職や経営者にとって、人事考課(人事評価)は従業員の昇進・昇給を決める大切な機会です。
しかし、旧態依然の人事評価制度(年功序列や上司の主観による評価)では、優秀な人材程、外部に流出していきます。
実績や客観的な数値に基づいた上司がすべき人事評価・評価面談の改善方法や心構えを解説します
目次
人事考課とは
人事考課とは、成績・能力・態度といったあらゆる視点から、社員の仕事を評価する仕組みです。
人事評価制度を機能させる上で、人事考課は従業員の給与だけでなく採用や育成まで幅広く関係ある項目でもあります。
そのため、人事考課における管理職(上司)の存在は重要です。管理職が下した人事考課を部下やチームメンバーに受け入れてもらえるためには、上司と部下との間に信頼関係が築かれてなければなりません。
そのためにも、人事考課を実施する前に目標設定において、人事制度で定められた評価基準に従って、上司と部下双方が目標への合意が必要です。
評価基準が明確ではない企業では、「どういった業務」を「どのKPI」で「どれくらい」満たせば、達成したとするかを上司と部下双方で取り決めましょう
人事考課を実施する管理職が意識すべきポイント
人事評価に対する部下やチームメンバーの納得感を得るためには、上司と部下との間に信頼関係を築かなければなりません。
近年、「リーダーシップを高める」、「1on1ミーティングを実施する」など表面上のテクニックが流行していますが、管理職の能力を高めるには、必ずしも難しいことをしなければならないということではありません。
「リーダーシップが必要」という精神論は時代遅れ
優れた結果を出す経営者や管理職は、部下やチームメンバーのモチベーションを高め、会社全体の方向性を示し、周囲に成果を出させるということも事実です。
しかし、バブル経済崩壊後の日本社会では人手不足や慣れない成果主義の導入により、現在の管理職はプレイングマネージャーとして登用された方も多く、管理職のスキルを身につけた上で管理職に昇進したとは言い難い状況です。
そのため、今後は”上司の仕事”を再定義し、3つのステップで「上司の仕事」を遂行する力を身につけなければなりません。
step
1部下の本音を聞き出す
step
2部下が不利にならないように聞き出した情報を社内で共有する
step
3部下の同意・会社の許可を得た上で具体的に職場を改善する
この3つのステップをきちんと実践し、繰り返すことで”部下からの信頼”を得られ、上司と部下との間に信頼関係が醸成されます。
管理職が管理職に必要なスキルを身に着けられなかった原因は、管理職だけの責任ではなく、管理職の育成に投資をしようとしない会社にも原因があります
職場の”本当の”問題を知っているか?
社員の入れ替わりが激しい職場の管理職の多くは、職場の”本当の”問題を知らず、見当違いの対策を行っている傾向が見られます。
人事部が退職していく従業員に退職理由を尋ねて、最も多い理由が「賃金」を掲げています。
しかし、従業員にとって、賃金に対する退職理由は単に”使い勝手がいい”だけで、去る職場とカドが立たないようにする退職者の気遣いといえます。
また、会社側も退職理由に賃金を挙げられると「仕方がない」となってしまい、本当の問題を先送りにしがちです。
そのため、管理職は「賃金が安い」という退職理由の裏に隠された”本当の”理由(人間関係が良くない割には賃金が低い、仕事の進め方が古くて残業が多い割には賃金が低い等)を聞き出す力を身につけなければなりません。
ツールやノウハウに依存しない
近年では、HRテックといわれる人事評価・モチベーション管理システムや、タレントマネジメント・1on1ミーティングといったマネジメントノウハウが多く登場し、注目を集めています。
しかし、こうしたツールやノウハウは、管理職のスキルアップ(管理職の教育)をしないまま実施しても形骸化し、「とりあえずやった」というむなしい結果のみ残ります。
HRテックやノウハウに頼る前に「管理職を起点とした」職場内コミュニケーションの強化(管理職のヒューマンスキル:対人関係能力)しなければ、職場の”本当の”問題は解決できません。
管理職のスキルアップに必要な「職場の問題を""聞き出す"技術」や「職場の問題を”共有する”力」については、大橋の著書「リーダーシップがなくてもできる 「職場の問題」30の解決法」で詳しく解説しています。
こちらもCHECK
-
-
人事考課に役立つ管理職の「聞き出す」技術とは?部下の信頼を得る人事考課シートの書き方も解説!
続きを見る
管理職が意識すべき部下の人事考課事例
今回は管理職が部下やチームメンバーの人事考課を評価するために、業種別の人事考課への考え方をまとめてみました。
管理職だけでなく、管理職をマネジメントする経営層もぜひ参考にしてみてください。
人事考課のやり方【営業編】
営業部に所属する管理職が部下の人事考課を考える上で、以下の4点が重要となります。
営業部管理職が考えるポイント
- 昨年対比ではなく、過去最高比で数値を達成したか
- 部下と合意した評価基準が達成されたかどうか
- 普段の働きぶりを記録したメモを振り返り、定性評価も考慮する
- 「具体的にどんな仕事をしたか」という具体的事実を確認する
営業成績など数値を根拠とした目標設定は、昨年対比ではなく、過去最高比の数値を設定し、部下の目標達成に対する心理的負担を軽減することが大切です。
数値で計測できない評価(定性評価)は、普段から部下の働きぶりを確認し、メモしておきます。
また、普段から面談(1on1ミーティング)を実施している場合、4つ目の「具体的にどんな仕事をしたか」を記録しておきましょう。
人事考課を実施する部下が管理職候補の場合、後輩や課員への指導やチームワークの貢献、自己研鑽なども評価項目として盛り込み、フィードバックを行います。
※この場合も部下と合意することで、信頼関係の構築につながります。
人事考課のやり方【営業事務編】
SaaSをはじめ、事務は業務効率化の対象になりやすいうえ、目標設定が曖昧になりやすい部門でもあります。そのため、見積もりの作成数や営業担当者の業務時間の削減など明確に数値で設定し、人事考課を行います。
営業事務の管理職が考えるポイント
- 昨年対比ではなく、過去最高比で数値を達成したか
- 部下と合意した評価基準が達成されたかどうか
- 担当している直接部門(営業担当者)の負担が減ったか確認する
- 「具体的にどんな風に組織に貢献したか」という具体的事実を確認する
事務などバックオフィス部門も実績がわかりやすい営業職と変わらず、KPIを設定します。
「営業事務として発注ミスをなくす」、「効率的に業務を進め、見積もり作成数を達成する」、「営業と連携し、契約から納期までの期間を〇時間短縮する」など事務にもKPIを設定しやすい業務は多岐に渡ります。
また、営業担当者と円滑なコミュニケーションが取れているかは、普段の働きぶりを確認し、記録しておくことで人事考課に反映させることができます。
例えば、「メール配信によりミスの呼びかけを全体に行う」、「現在発生しているミスの要因を調べ、注意喚起を促す」等も人事考課に反映しやすい具体的な働きぶりといえます。
事務職をはじめ、バックオフィスにも具体的なKPIを持たせ、組織に対するエンゲージメントを高めることが大切です
製造病の人事考課では5Sは反映させない
製造業の場合は、ルーティン業務が非常に多く、着実に業務遂行がなされているかが人事考課に反映されます。
一方で、トヨタ式5Sといわれる(理・整頓・清掃・清潔・躾のローマ字の頭文字をとった造語)を人事考課に反映させると、従業員の業務遂行能力の向上とコスト削減には役に立ちますが、「営業利益を上げる」という目的では弊害をもたらすことがあります。
営業担当者と同じように、具体的なKPI(生産数や業務時間、品質の担保など)を設定し、人事考課に組み込みます。
こちらもCHECK
-
-
目標設定に昨年対比は時代遅れ!?成果を出させるための設定方法を解説【無料目標設定シート付】
続きを見る
大橋高広式スタッフのトリセツシートを無料プレゼント!
従業員が自分の人事考課に納得感を得てもらうためには、管理職と部下・チームメンバーとの間に信頼関係を構築することが不可欠です。
しかし、前述の通り、現在の管理職は管理職としてのスキルアップを十分にされないまま、管理職に昇進していった方が多いといえます。
企業で通算1200人以上のヒアリングを行ってきた大橋の経験を反映させ、部下の”本当の”本音を聞き出すことに役立つ「大橋高広式スタッフのトリセツシート」を無料でプレゼントいたします。
部下との信頼関係の構築方法や部下とのコミュニケーション方法に不安な方はぜひ参考にしてみてください。
\登録でGET/
優秀な部下が辞めない人事考課・自己評価:まとめ
人事考課は、成果を出せる優秀な人材を生み出すための大切な取り組みです。
一方で、人事考課を評価する管理職は十分な管理職スキルを得ずに昇進した方も少なくありません。
新卒入社の新人には教育を投資するにもかかわらず、管理職の教育に投資しない会社の姿勢にも問題があります。
優秀な人材を生み出し、定着させるためには、まず管理職のスキルアップや教育が必要不可欠です。