もし、社長であるあなたが退職金制度を一度も見直したことがないのであれば注意が必要かもしれません。
その制度では本当に退職金を「渡したい人」に「渡したい額」が規定されているでしょうか?
今回は、退職金制度を見直す際のポイントについてお話したいと思います。
もちろん、これから退職金制度を構築したい方にも十分参考になると思いますので、ぜひご参考にしてください。
退職金制度を見直すにあたって
具体的なポイントはこれからお話させていただきますが、その前に大切なことは「社長であるあなたがどうしたいのか」ということです。
企業においては、ややもすると節税的な視点で退職金制度を見直しがちです。
もちろん節税自体を否定することはできませんが、特に中小企業においては社員の定着的な視点がより重要になってきます。
この点を踏まえて本文をお読みいただくと、素晴らしい退職金制度が出来上がるでしょう。
ポイント1:現状確認

現状確認とは、退職金規程の確認です。
退職金制度があれば、必ず退職金規程が存在していると思います。
会社を相続した際に引き継いだ規定もあれば、社長であるあなた自身が作った規定もあると思います。
あなた自身が作った規定であっても、必ず確認するようにしてください。
と言うのも、ここ数年の間に、「公的年金」をはじめとした退職金を取り巻く環境が大きく変わっているためです。
通常、退職金規程には次のようなことが規定されています。
- 退職金の支給対象者
- 支給金額の計算方法
- 支払い方法
- 退職事由による減額
- 外部機関(企業年金や共済)の利用有無
このような規定が、「今のあなたの考えに合っているのか?」、「これからの人手不足時代に合っているのか?」、あるいは「同業他社と比べてどうか?」と自問自答を繰り返しながら確認していくことが大切です。
このように現状確認を行った上で、初めて見直しがスタートできるのです。
そして、次に重要なことは退職金制度の肝となる部分の考え方を整理することです。
つまり、「誰に」、「いくら支払うのか」、そして、そのお金は「どのように準備するのか」ということです。
ポイント2:支払いルールの設計

あなたは社長として、どのように考えますか?
この答えを決めるのが、支払いルールの設計です。
年功序列と業績貢献
近年、「年功序列」という考え方がネガティブに捉えられる傾向にあります。
反面、「成果主義」という、いかに会社の業績に貢献したかという尺度で社員を評価しようという考え方があります。
特に通常の賃金では、濃淡はあるものの、成果主義的な要素を考慮した設計になっているケースが普通になってきました。
退職金も同じスタンスで大丈夫でしょうか?
退職金は、社員の「定着のための制度」と捉えるべきです。
特に少数精鋭の中小企業においては、長年の経験に裏付けされた熟練の技術者が会社を支えているケースが非常に多いのです。
つまり中小企業においては、年功序列的な要素に重点を置くべきと考えます。
退職金制度において、年功序列と業績貢献はお互いに相容れない考えではありません。
それぞれの考え方を取り入れ、織り交ぜながら退職金制度を見直すことも可能なのです。
退職事由による差異
社員が会社を去る理由は様々です。
「定年退職」、「自己都合退職」それに「懲戒解雇」といった事由もあります。
このような事由によって退職金にどのような差異を持たせるかがポイントです。
普通の感覚では「懲戒解雇で退職金などあり得ない!」と考えますが、規定に載せなければならないのです。
もし、今の退職金規程に懲戒解雇者に関する記載が無ければ、場合によっては退職金を支払わなければなりません。
このような社長自身の感覚、考えを退職金規程として明文化しておくことがとても大切なのです。
それでは、自己都合退職者についてはどうでしょうか。
「全額支払うのか」、「何割かをカットするのか」、また「入社後3年で自己都合退職した社員と、入社後25年で自己都合退職した社員とではカット率は同じでいいのか」といった視点がポイントとなります。
支払う金額水準
今の退職金規程を元に、一度退職金を計算してみてください。
例えば、高校を卒業した新入社員が定年まで働いた場合をモデルケースにしてもいいでしょう。
その金額は社長である「あなたの感覚に合っているでしょうか?」、「会社として支払える金額でしょうか?」、それに「同業他社と比べて多いでしょうか?少ないでしょうか?」
退職金は社員の老後の生活を支える大切なお金ですが、会社としても払うことができる金額というものがあると思います。
公的年金の制度変更なども気になるところです。
なぜ、あなたは退職金の支払い水準をこの金額に決めたのか、社員に納得のある説明ができるかどうかがポイントです。
ポイント3:退職金積み立て方法の設計

退職金は計画的に準備する必要がありますが、その方法も様々です。
それぞれの特徴を把握して、自社に最適な方法を選択する必要があります。
積み立てる場所
まず確認したいのは、退職金の準備資金を社内に置くのか、社外に置くのかということです。
つまり、「会社の財布」に置いておくのか、信頼できる「第三者の財布」に置いておくのかということです。
ここで言う第三者とは信託銀行や生命保険会社、共済機構です。
選択のポイントとなるのは、「税金」と「使用用途」です。
社内に置く場合、そのお金に税金は掛かりますが、いざという時には、資金繰りに役立ちます。
退職金用の資金を別用途に使用することも可能なのです。
一方、社外に置く場合、第三者の財布ですから会社が勝手に使うことはできません。
退職金にしか利用できないわけです。
しかし、このお金に税金は一切掛かりません。
社員の視点ではどうでしょうか。
もちろん、社外に置いている方が自分たちの退職金が守られているわけですから、安心感は全く違うことになるでしょう。
今の規定はどちらですか?それぞれの特徴を把握して決定したものでしょうか?
社内・社外の併用
先程、準備資金を社内に置くか、社外に置くかというお話をさせていただきましたが、それぞれ併用することも可能です。
会社、および社員にとってのメリット、デメリットを考慮しつつ、併用するわけです。
例えば、退職金全てを社内に置くわけではなく、一部を社外に置き、残りを社内に置くケースです。
社員への安心感を担保しつつ、会社として準備資金を資金繰りに流用できるというメリットも残しておくのです。
今の規定は、このような併用も考慮されているでしょうか。
まとめ
中小企業では、初めて退職者が出た際に慌てて退職金制度を作り、それが今に至っているというケースもあります。
また、金融機関などからの提案で、節税メリットだけが強調された制度がそのまま放置されているケースも少なくありません。
製造業であれば、定期的に製造ラインを見直すことは当然のことだと思いますが、退職金制度についても全く同じことが言えるのではないでしょうか。
さらに申し上げると、見直した退職金制度はぜひ、社員の皆さんに説明してあげてください。
「なぜこの金額なのか」、「なぜ、勤続年数を重視したのか」、社員の納得があってこその退職金制度なのです。