退職金は税率が低い!社員は知っているんでしょうか?

退職金は社員に対して「長年の労に報いる」ものです。
また、老後の生活を支える大切なお金でもあるので、実は税率もかなり低く設定されています。

社員に対して退職金が税制的にも有利であることを伝えるのは、社員に安心感を与え、モチベーションアップにも繋がるのです。

意外に思う社長もいらっしゃるかもしれませんが、とても大切なことです。

社員は、自分の会社に「退職金制度がある」ということは分かっているものの、「手取りでいくらもらえるのか?」、「年金でもらえるのか?」といった具体的な内容は理解していないケースが多いのです。
会社も積極的に退職金制度の説明をしていない傾向があり、これでは、「何のために作った制度なのか」となってしまいます。

そこで、退職金制度と併せて退職金が税制上とても有利なお金であることを説明することで、社員は安心して仕事に打ち込むことができるのです。
そのためには、何より社長であるあなたが「退職金と税率」について頭の中を整理しておく必要があるのです。

退職金の税率はどれくらい?

税金の世界では、退職金は「退職所得」とも呼ばれ、他の所得、例えば「不動産所得」や「譲渡所得」などとは切り離されて、単独で課税されます。
「分離課税」と言うものです。

そして、この退職所得にかかってくる税金は「所得税」「住民税」です。

所得税は、様々な所得に対して課税されます。
一般的には累進課税と言って、所得が多いほど高い税率が掛けられるものなのですが、退職金、つまり退職所得においてもこの考え方は同じです。

所得税の速算表(国税庁ホームページより)

課税される所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円を超え 330万円以下10%97,500円
330万円を超え 695万円以下20%427,500円
695万円を超え 900万円以下23%636,000円
900万円を超え 1,800万円以下33%1,536,000円
1,800万円を超え4,000万円以下40%2,796,000円
4,000万円超45%4,796,000円

※平成49年12月31日までは「復興特別所得税」として、上記税率に対して2.1%が掛かります。

例えば、退職金(退職所得)が1,000万円だとすると、所得税は次の通りです。

1,000万円×33%ー1,536,000円=1,764,000円

※復興特別所得税:1,764,000円×2.1%=37,044

一方、住民税は、退職所得に対して一律の10%です。
退職金(退職所得)が1,000万円だとすると、住民税は次の通りです。

1,000万円×10%=1,000,000円

ところで、ここまで読んでいただいた方の中には、何かに気づいている方も多いのではないでしょうか。

そうです。この内容では退職金の税率に全くお得感がありません。税率が低くないのです。

では、一体なぜ退職金の税率は低いと言えるのでしょうか。

退職金の税率に大きく関係!?退職所得控除

あなたは「所得控除」という言葉を聞いたことがありませんか?

奥様がいらっしゃる場合の「配偶者控除」、お子様がいらっしゃる場合の「扶養控除」、あるいは病気にかかった場合の「医療費控除」などです。それぞれ一定の条件はありますが、あなたの収入から控除することができます。

控除とは「非課税」と読み替えてもいいと思います。
つまり、あなたの収入の中で、控除対象となった金額は非課税になるのです。

実は、この所得控除が退職所得にもあるのです。
「退職所得控除」と呼ばれ、一定の金額を退職金から控除(非課税)できるのです。

そして、更に退職金は優遇されています。

実際に課税される金額は退職金から退職所得控除分を差し引いた金額の半分で済むのです。

ここまでの内容を計算式で表してみましょう。

第1章では次の計算式でした。

所得税:退職金×税率ー控除額=税金
住民税:退職金×10%=税金

実際は退職所得控除、および控除後の金額の半分で済みます。

所得税:{(退職金ー退職所得控除額)×1/2}×税率ー控除額
住民税:{(退職金ー退職所得控除額)×1/2}×10%

いかがでしょうか。
実際に課税される金額は、当初の退職金の額からかなり低くなっているのがお分かりいただけると思います。
結果的に、退職金の税率は低くなるのです。

それでは、退職所得控除で実際にいくら差し引いてくれるのでしょうか?

勤続年数と退職所得控除

実は退職所得控除の金額は一律ではありません。
勤続年数に比例して高くなっていくのです。
つまり、「勤続年数が長ければ退職金も多額になってくるだろうから、控除額もそれに応じて高くしなければならない」という考え方です。

近年は退職金にも「成果主義」の考え方が浸透してきていますが、やはり「長年の労に報いる」制度であることが伺えます。

具体的な退職所得控除額は次の計算式で求めることができます。

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円×勤続年数
20年超800万円+70万円×(勤続年数ー20年)

※勤続年数の1年未満は1年に繰り上げます。

例えば、勤続年数15年の方の退職所得控除額は次の通りです。

40万円×15年=600万円 

つまり退職金600万円までは非課税となります。

勤続年数が25年の方はどうでしょうか。

800万円+70万円×(25年ー20年)=1,150万円 

つまり退職金1,150万円まで非課税となります。

退職金に対する税金を具体的に計算してみよう!

それでは、実際に計算してみましょう。

例)勤続年数20年、退職金1,000万円

STEP

退職所得控除額を計算します。
40万円×20年=800万円

STEP
  1. 課税対象金額を計算します。
    (1,000万円ー800万円)×1/2=100万円
STEP

所得税、住民税を計算します。(所得税は第1章で掲載した速算表より税率を確認)
所得税:100万円×5%ー0円=50,000円
住民税:100万円×10%=100,000円

元々の退職金は1,000万円です。
それに対して所得税は5万円、住民税は10万円になりました。
これを税率にすると、次のようになります。

所得税:(5万円÷1,000万円)×100=0.5%
※本来、1000万円の所得に対する税率は33%です。

住民税:(10万円÷1,000万円)×100=1%
※本来、住民税の税率は10%です。

いかがでしょうか。一目瞭然ですね。

まとめ

退職金は公的年金とともに、老後の生活を支える大切なお金です。
国もこの点に配慮をして、このような税制にしているのです。
会社も相応の負担をしている退職金制度ですので、有利な税制とともにしっかりと制度説明を行って、社員に安心して働いてもらいませんか?

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大橋 高広
株式会社NCコンサルティング 代表取締役社長|人事コンサルタント・研修講師|東洋経済オンライン記事投稿・日本経済新聞での書籍紹介│新刊『リーダーシップがなくてもできる職場の問題30の解決法』(日本実業出版社)Amazonランキング「マネジメント・人材管理」6位│その他著書『バカはブラック企業に入りなさい』(徳間書店)、『人事部のつくり方』(主婦の友社)│人事制度の設計と運用・管理職研修・職場改善研修・新卒研修・若手社員研修など「人事評価制度の設計と運営」を軸に、「組織文化形成・管理職育成・職場改善」など人事全般に関するサポートを提供