会社にとって退職金の支払義務はありません。
しかし大企業はもちろんのこと中小企業においても、ほとんどの会社で退職金制度は存在しているのです。
そこで質問です。中小企業の社長であるあなたは、なぜ退職金制度を作ったんですか?その理由を社員に説明していますか?
中小企業が”退職金制度なし”を選択しない理由

まずは、次の表をご覧下さい。
これは平成25年、厚生労働省から発表された「就労条件総合調査」から抜粋したものです。

この調査結果によると、従業員30人から99人の会社では、72%が退職金制度を導入しています。
導入する理由としては、「良い人材を獲得したい」、「社員の労に報いたい」などがあると思いますが、「他の会社が導入しているから」という理由もあるのではないでしょうか。
7割以上の会社が導入している制度です。
中小企業の社長にとって「退職金制度なし」という選択肢はもともと無かったのかもしれません。
自社の退職金制度を理解していますか?

意外に思われるかもしれませんが、自社の退職金制度を詳しく理解している社長は少ないものです。
特に、第1章でお話した「他の会社が導入しているから」という理由で退職金制度を導入している会社では、その傾向が高くなります。
つまり、もともと退職金制度にはあまり関心が無いのです。
社長自身が詳しく理解していない制度のため、社員への説明も疎かになってしまいます。
結果として、社員は「退職金制度がある」ということは理解できても、「どんな仕組み」で、「金額はいくらか?」までは理解していないのです。
退職金制度がない会社と同じ!?

中小企業の社長にとって、退職金制度に対する思い入れはまちまちですが、制度を導入した以上は、社員に対して何らかの効果を期待したいところでしょう。
一方、社員からすると詳しくは知らない、説明してもらっていない退職金制度に対して、一体どういう印象を持つでしょうか。
「この会社で働き続けたい」というモチベーションにつながるのでしょうか。
おそらく、答えはノーだと思います。
つまり、いくら退職金制度を作ったからといって、その制度が社員に詳しく理解してもらっていないのであれば、その意義が正しく伝わっていないのであれば、「退職金制度がない会社」と同じなのではないでしょうか。
退職金制度を運用するために、会社は多額のお金を支出しているはずです。
しかし、その思いが社員に理解してもらっていないとすれば、これほど無意味なことはありません。
退職金制度を廃止した会社もある!?

最近は退職金制度を廃止、あるいは廃止しようとする動きがあります。その理由は何でしょうか?
- 費用負担が大きい
- 今は成果主義の考え方がトレンドであり、年功序列的な考えは時代遅れである
まず費用負担についてですが、退職金に支払義務がないのは冒頭にお話した通りです。
この「義務がない」という言葉を少し誤解している社長がいます。
つまり、「義務がない」のであれば、会社の経営が苦しい時には「支払わなくてもいい」と解釈してしまっているのです。
ボーナスと同じ感覚なのです。
しかし、一旦退職金制度を導入したならば、会社の経営状態に関係なく、退職金は制度通り支払わなければなりません。
「義務がない」退職金が「義務」になってしまうのです。
これに気づいた社長が退職金制度を廃止するというケースがあります。
退職金制度を廃止するには一定の手続きが必要です。
次に成果主義についてです。
中小企業においても、給与査定の一部に成果主義の考え方を採用するケースは多くなってきました。
そこで、年功序列的な色合いの強い退職金制度を廃止しようとする動きです。
つまり、通常支払われる賃金と長年の労に報いる退職金を同じ視点で捉えようとしているのです。
中小企業において退職金制度は必要なのか

大企業と違い、少数精鋭の中小企業において、一番大切なものは「人材」です。
まさに「人財」と言っていいでしょう。
特に高い技術を必要とする製造業においては、長期的な雇用を前提としなければ、会社が成り立たないのです。
そのためには、退職金制度が重要な意味を持ってきます。
さらに申し上げると、「成果主義的な視点」ではなく、「定着的な視点」で構築した退職金制度が必要なのです。
しかし、重要なのは構築することだけではありません。
会社はなぜ義務ではない退職金を支払うのか、制度の意義を正しく社員に伝え、理解してもらうことが大切なのです。
まとめ
特に中小企業においては、社員の「定着的な視点」で退職金制度を構築しなければなりません。
しかし、あまりに社員側に立ちすぎた制度であれば、会社側の負担は増加し、会社の経営に致命的な影響を与えかねません。
会社が倒産してしまえば、社員の定着どころではないのです。
その逆に、費用負担の軽減や節税など会社都合ばかりを考えてしまうと、本来の退職金制度の意義が失われてしまいます。
つまり、退職金制度とは会社(社長)と現場の社員との十分なコミュニケーションの下で納得感のある運用がなされて、はじめて意義のあるものとなるのです。