一口に退職金制度と言っても、「退職金の準備方法」や「退職金の支払い方法」などの違いから、いくつかの種類に分けることができます。
それでは、退職金制度にはどのような種類があるのでしょうか?会社側から見たメリット、デメリットを洗い出してみました。
退職一時金制度
名称の通り、退職金を一時金、つまり一括で支払う制度です。
退職金は定期的に積み立てていく、もしくは退職者が出るタイミングで全額を準備するなどの方法がありますが、いずれにしても退職金の準備から支払いまで、全て会社が行うことが最大の特徴です。
メリット:資金流用が可能である
本来、退職金の支払いのために準備しているお金ですが、それ以外の用途に使用することも可能です。
あくまで、「会社の財布」にあるお金であり、会社のためであれば何のために使用しても全く問題はありませんので、例えば「急な出費」に使用することもできるのです。
デメリット:法人税の対象となる
退職金の支払いのためにコツコツとお金を貯めたとしても、そのお金は法人税上の利益とみなされます。
決算期をまたいでしまうと税金を取られてしまうのです。
以前は優遇措置もあったのですが、2002年になくなってしまいました。
デメリット:中途退職者への対応が難しい
この制度では、退職者が出るタイミングで退職金全額を準備するということも可能ですが、定年退職者ばかりであれば、お金が必要な時期も明確です。
しかし中途退職者が出た場合はどうでしょうか。
急な資金繰りが生じるばかりでなく、今期の利益が想定外の数字になることもあり得るのです。
確定給付企業年金
退職金は定期的に積み立てていくのですが、そのお金は「会社の財布」ではなく、「外部の財布」に積み立てていくことになります。
ここで言う外部とは生命保険会社や信託銀行です。
支払いも会社ではなく、生命保険会社などから退職者へ支払いが行われます。
また、「企業年金」という名称の通り、退職金は「年金」で支払われます。
また退職者が希望すれば、一時金で支払うことも可能です。
メリット:税制優遇措置がある
定期的に積み立てるお金は全額損金処理ができます。
さらに外部で積み立てたお金の運用益は全額非課税です。
デメリット:資金流用ができない
社員の退職金のためだとは言え、コツコツと積み立てたお金をいざと言う時に使うことができないのは、少し不安があるのではないでしょうか。
一方、社員から見れば「退職金は守られている」わけですから、安心感が高まるというメリットに変わります。
デメリット:不足分の補填義務がある
会社はお金を定期的に積み立てるわけですが、その運用は外部、つまり、生命保険会社や信託銀行が行います。
仮に運用が不調に終わり、退職金制度に基づいた金額を支払うことができない場合、その不足分は会社が負担しなければならないのです。
「確定給付」という名称はこの点から付いているのです。
この点についても、社員からすると運用成績に関わらず確定した退職金をもらえるというメリットになるわけです。
デメリット:中小企業は使いづらい
退職金の運用や支払いは生命保険会社などが行いますが、従業員数の少ない中小企業においては、生命保険会社などにとって手数料収入などのビジネス面でのメリットが少なく、引き受けてくれないケースが多いようです。
確定拠出企業年金(日本版401K)
第2章で「確定給付企業年金」の説明をさせていただきましたが、約束した額の退職金は必ず支払わなければならない制度でした。
運用の結果、不足が生じた場合はその分を会社が負担しなければならないのです。
これは会社にとって、一つの債務と言えます。
そして、その債務は決算に反映させなければなりません。
会社にとってはせっかくの好業績も、この債務の影響で赤字転落という自体にもなりかねないのです。
そこで、米国で採用され、日本でも一部の会社で採用されていた「確定拠出企業年金」と呼ばれる制度が注目されることになったのです。
確定拠出企業年金(日本版401K)では会社は毎月決まった金額を積み立てることにのみ責任があり、実際の運用は社員個人に任せるという考え方です。
つまり、給付額は社員個人の運用次第で増減し、会社は最終的な給付額に責任を持つ必要がなくなるのです。
※401Kとは米国での「確定拠出型企業年金」に関する法律の番号です。
メリット:最終的な退職金の支払い金額に責任を持たなくても良い
確定給付企業年金に比べて会社側の負担を減らし、自らの退職金に対する社員への自己責任を追加した制度です。
一見すると、社員の不満が増える制度のようにも思えますが、運用次第では受け取る退職金が増える可能性もあるため、社員にとっては賛否両論の制度と言えるでしょう。
共済型退職金制度
少数精鋭の中小企業において、社員の定着は最も優先すべき課題であり、そのために退職金制度は非常に重要な役割を担うわけです。
これまで、「退職一時金制度」、「確定給付企業年金」、および「確定拠出企業年金」の説明をさせていただきましたが、社員にとって最も安心できる制度は「確定給付企業年金」ではないでしょうか。
しかし、確定給付企業年金は生命保険会社などとの契約が必要であり、従業員の少ない中小企業では契約してもらえないケースが多いのも事実です。
そこで、確定給付企業年金と同様のメリットを享受しつつ、中小企業でも導入しやすい共済制度が誕生したのです。
共済型退職金制度には大きく2つの制度が存在します。
- 中小企業退職金共済
- 特定退職金共済
中小企業退職金共済(中退共)
中小企業退職金共済は国の退職金制度です。仕組みは確定給付企業年金と同じですが、生命保険会社や信託銀行ではなく、共済機構が管理運用および支払いを行います。
メリット:中小企業でも入りやすい
加入条件が中小企業基準になっており、ほぼ全ての中小企業が利用できるのではないでしょうか。
※加入の条件(中小企業退職金共済事業本部ホームページより)
業種 | 常用従業員数 | 資本金・出資金 | |
---|---|---|---|
一般業種(製造業、建設業等) | 300人以下 | または | 3億円以下 |
卸売業 | 100人以下 | または | 1億円以下 |
サービス業 | 100人以下 | または | 5千万円以下 |
小売業 | 50人以下 | または | 5千万円以下 |
メリット:掛金設定は安価な金額から始められ、社員ごとに掛金設定ができる
例えば、役職ごとに掛金設定を変更することもできるわけです。
※選択できる毎月の掛金(中小企業退職金共済事業本部ホームページより)
5,000円 | 6,000円 | 7,000円 | 8,000円 |
9,000円 | 10,000円 | 12,000円 | 14,000円 |
16,000円 | 18,000円 | 20,000円 | 22,000円 |
24,000円 | 26,000円 | 28,000円 | 30,000円 |
デメリット:掛金の減額がしづらい
経営上の都合で掛金を減額したい場合があるかもしれませんが、次のいずれかの手続きが必要になります。
- 社員の同意を得る
- 減額の正当性を厚生労働大臣に承認してもらう
いずれもハードルが高いため、長期に渡って支払うことができるよう、掛金設定は慎重に行う必要があります。
デメリット:退職金の減額がしづらい
社長としては、懲戒解雇や自己都合退職など退職金を満額支払うことに納得がいかないケースもあると思います。
しかし、中退共では退職事由による退職金の減額は原則できません。
なお、厚生労働大臣の認定を受けることで減額することは可能ですが、ハードルが高い上、減額した金額は会社に戻ってきませんので、注意が必要です。
デメリット:退職金の不支給期間が存在する
加入後11ヶ月目までは退職金が支給されません。
また、12ヶ月目以降退職金は支給されますが、23ヶ月目までは掛金を下回る金額しか支給されません。
つまり、あまり考えたくはありませんが、入社後2年未満で退職者が出た場合の加入メリットがないということです。
特定退職金共済(特退共)
特定退職金共済は各地の商工会議所が窓口となる退職金制度です。
中退共との違いを見ていきたいと思います。
- 加入条件がない。(商工会議所の管轄エリアに所在する企業であれば加入できます)
- 掛金設定が1,000円~30,000円の千円刻みとなっており、中退共よりも細かい設定が可能となる。
- 退職金の不支給期間がない。
- 掛金の合計<退職金となる期間が中退共よりも長期間を要する。つまり運用効率が中退共よりも劣る。
まとめ
4種類の退職金制度の比較表を作成してみましたが、いかがでしょうか。
制度 | 税負担 | 資金流用 | 資金負担 | 中小企業の使いやすさ |
---|---|---|---|---|
退職一時金制度 | × | 〇 | × | 〇 |
確定給付企業年金 | 〇 | × | △ | × |
確定拠出企業年金 | 〇 | × | 〇 | △ |
共済型 | 〇 | × | 〇 | 〇 |
それぞれ一長一短はありますが、いずれか1種類だけを利用するというわけではありません。
自社の実情に合わせ、複数の制度を併用するという考え方もありますので、会社側、社員側両面から最適な制度を選択していただければと思います。